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1. 初めてなんやって
朝起きると、頭が痛かった。
私は、中学2年の今日まで「頭が痛い」っていうのは、慣用句だけの言葉だと思ってた。比喩で表現していて、実際にはあり得ないこと。「へそで茶をわかす」とか「足を棒にする」といった類の言葉だ。
ほやかって、困ったことがキャパ以上やと「頭が痛い」って言うやん。
それにしても、こんな痛みは初めてだ。特に眉間のあたりがズキズキする。頭の前方は前頭葉だ。そこが異常に大きかった人って、誰やったっけ。ああ思い出せん。記憶障害が始まったあ。私は頭を抱える。
きっと知らないうちに病気になってたんだ。(ほんでも、病気って、かかる時がわからんもんやないの。)頭の病気……ああ脳腫瘍だ。
痛む頭に、ドスドスという音が直に伝わる。お母ちゃんが階段を上がる音だ。そして部屋のドアを勢いよく開けると、私の布団をはぐ。
「夏生、起きねま! おそなるんやざ!」
「頭……痛いんやって……」
「頭、痛い? 風邪引いたんでないんか」
私は体をエビのように、ぐうっと丸める。
「きっと、違うと思う」
「何が違うんやの。お母ちゃんわからんがの。熱あるんでないんか」
お母ちゃんが私の額に手を当てる。
そこが一番痛いのに。「うっ」と、うめき声が出る。お母ちゃんの手は冷やっとしている。
「ほら、やっぱ熱あるって。お医者はん行ってきねま。学校休むやろ。電話しとくでの」
え……学校……休む……? 今日何があるんやったっけ? 宿題全部やってあるんやけどなあ。
お母ちゃんの早口に、思考がついていかない。私が返事をしていないのに、学校を休むことになってしまった。
まあ、いいっか……。
あきらめた途端に、妙な開放感が体に広がる。枕に顔をうずめる。
またドアがノックされる。
「風邪引いたんやってか」
お父ちゃんだ……。
「自己管理ができてえん証拠や。医者も行かんと寝てたってあかんのやぞ」
それだけ言うと、行ってしまった。
私は、のろのろと起き上がり、のろのろと支度をして、のろのろとご飯を食べた。
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