第5章:ハーケンクロイツ

72/91
前へ
/541ページ
次へ
今日の楓さんは白い襟付きの紺の膝丈ワンピースを着ていた。毎回違ったコーディネートの楓さんだが、人にもよるかもしれない、元の時代の普通の女の子よりも、オシャレに気を使っているかもしれない。この時代の女の子は戦争もない平和な日本国で、新しく入ってきたヨーロッパやロシア、アメリカのファッションの影響も受けて、今世界でもっともオシャレを楽しんでいるのかもしれない。特にパリやロンドンから多くの有名なファッションデザイナーが東京に移住してきているので、今の東京は世界のファッションの最先端と言っても過言ではないだろう。今年は第一回の東京コレクションの開催も予定していると聞いた。 「楓さん、ただいま。こちらこそお世話になります。」 「さぁ、上がってください。夕飯はまだですよね?」 「うん、楓さんが待ってると思って、急いで帰ってきました。」 「嬉しいです。夕飯を用意しておきましたので、着替え居間にきてください。」 「はい!急いで着替えてきます!」  自宅で女の子に手料理を作ってもらうなんて、生まれて初めてのイベントに心が躍る。玄関からそのまま寝室に行って軍服をハンガーにかけて、部屋着に着替えてから居間に行くと、楓さんが用意してくれた料理が食卓に並んでいた。今日のメニューは焼き魚(にしん)とシジミのみそ汁、白菜の漬物と白飯だった。 「わぁ、美味しそうですね。この家で手作りの食事をを食べるのは初めてです。」 「そうだと思いました。一度も使用した形跡がない新品の台所だったので、使って良いものなのか少し悩みましたよ。」 「作れない訳ではないのですが、一人だとなかなか使う機会がなくて。」     
/541ページ

最初のコメントを投稿しよう!

282人が本棚に入れています
本棚に追加