1.友情を繋ぐゆず香るタルト

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 真夏を思わせるような暑さを感じさせる六月の半ば。眩しいくらいの青空には雲ひとつなく、清々しいほどの晴天だ。  私はシルバーピンクのキャリーケースを引いて、先ほどまで泊まっていたホテルをあとにした。 「これからどうしようかな」  今日の行き先はまだ決まっていない。  私はのんびりと歩きながら、今に至る経緯を思い返す。  ここは伊予の国、愛媛県松山市。  私は昨日行われた友人の結婚式に出席するために訪れた。  友人は大学時代の同級生で、出身は千葉の方だと聞いたことがある。結婚式の場所としてこの地を選んだのは、旦那さんの実家が松山だったからだそうだ。  おかげで一泊二日の一人旅だというのに、結構な量の荷物を持ち運んでいるのはそのためだ。見た目はコンパクトなキャリーケースだが、この中には一ミリの隙間も無いほどの荷物が押し込まれている。  ……それにしても、暑い。  松山は瀬戸内海気候で雨が少ない地域とは聞いていたけれど、梅雨とは思えないくらいの晴れ模様だ。  今年の松山は空梅雨(からつゆ)かもしれないと友人は心配そうに言っていたけれど、連日雨続きだった東京から出てきた私にとっては、雨よりマシだと思ってしまった。実際には、外に出ると暑くて堪らないのだが。  そんな友人は、ジューンブライドだと言って、幸せそうに笑っていた。見知らぬ土地での一人旅にさえ失敗した私とは、雲泥(うんでい)の差だ。  ……こんなことなら、誰かと一緒に行動することにすれば良かったかな。  昨日の結婚式には、私と地元が同じ大学時代の友人も何人か出席していた。  土曜日の式だったということもあり、翌日の今日は皆で一緒に松山観光してから帰らないかと誘われていたのだが、私はその誘いを全て断った。決して仲が良くなかったわけではないが、今はできる限り一人になりたかったからだ。    少なくとも彼女たちは私より輝いた人生を歩いているのだろうということは、聞かなくてもわかる。今の私にとって人の充実した話を聞かされるのは、苦痛でしかない。
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