1.友情を繋ぐゆず香るタルト

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 何よりあまり長く一緒に居ると、ボロが出てしまいそうだった。  というのも、今回結婚式を挙げた友達は例外的に早く結婚したが、同じ二十三歳という年齢の大学時代の友達のほとんどが社会人二年目だ。  仕事に慣れてきて、この四月からは後輩ができたのかもしれない。  上を目指して頑張る人もいれば、さらなる自分の可能性に気づいた人もいるかもしれない。また昨日の友達のように結婚の話が進んでいる人もいるのかもしれない。  けれど、私はそのどれでもない。  新入社員として去年の春に入社した会社は今年に入って経営が傾き、半ばリストラのような形で退職せざるを得なくなってしまったのだから。それが今年の四月末の話だ。  以来、新たな就職先を探してはいるが、なかなか良い会社を見つけられていないのが現状だ。  結婚式ではそれとなく、変わらず元気にやっているよ、といった感じにごまかした。  けれど、失業して間もない今、みんなが仕事を頑張ってる話を聞かされるのはつらいものがある。かといって、嘘の話を作り上げて演じるほど私は器用ではない。  その結果、私は予定があるからと丁重にお断りするしかなかったのだ。  行き先を決めるために、とりあえずガイドブックを手に取る。それは昨日、書店で購入したものだ。立ち読みのつもりが、思っていた以上に興味を引く情報であふれていて、沈んだ気持ちが浮上してくるようだった。  松山といえば、みかんと道後温泉と坊っちゃん、そして正岡子規。  昨日の結婚式の後、道後温泉に行くことは前もって決めていた。失業と友人の結婚式により疲弊した心と身体(からだ)を癒してもらおうと思っていたからだ。    軽い足取りで向かった道後温泉には、無事にたどり着いた。伊予鉄のオレンジ色のバスは、わかりやすく道後温泉駅前という停留所に案内してくれたから。  しかし私は温泉を満喫した後、自分が最大級のミスを侵していたことに気づいたのだ。そのまま近くの宿で一晩過ごそうと思っていたというのに、予約がちゃんと取れていなかったのだ。  いや、正確には宿自体は取れていたのだが、私は道後温泉の方ではなく、奥道後(・・・)の方の宿を取っていたらしい。名前が似ているので間違えて予約してしまったようだ。  場所を調べてみたらそこそこ距離があり、歩いて行くには厳しいことから再びバスに揺られることになった。
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