もう1人

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「成瀬くんは転校することになりました」 朝のHR、先生の放った言葉だった 教室は少し静かになった。先生が真面目な話をする時、笑って友達と話していてはいけない雰囲気になる時に教室は空気を読む 先生「みんなには成瀬くんに色紙を書いてもらおうと思います、色紙はクラスで回して今週中に書いて下さい」 窓側の1番前の席のクラスメイトに色紙が渡される HRが終わるとクラスメイト達の話している声が聞こえてきた 「成瀬って誰だっけ?」 「1学期から学校来なくなったから、どんな奴かわからないよな」 誰が話していたのかはわからない 成瀬美祐、同じ剣道部 僕も成瀬くんとは1学期の間しか知らないけど 一緒に練習した事は覚えている、その事を書こう 「短い間だったけど、一緒に練習できて楽しかったよ、転校先でも剣道頑張ってね」 こんな感じだろうか 今日1日は教室の至る所で成瀬くんの話題になっていた しかし、みんな成瀬くんの事を知らないのか興味がないのか、色紙をどうするかという話題ばかりで。 色紙が面倒ごとのようだった 当たり前か、彼らは友達ではないのだ たまたま同じ歳で、たまたま地域が近くて、たまたま同じクラスになった、偶然出会っただけの他人なのだ 学校に来ていた時から部活には来なくなっていた 僕は何度か声をかけたことがあった 「今日の部活行かないの?」 放課後の靴箱の前での出来事、成瀬くんは帰ろうとしていたところを何度か捕まえたことがある そういう時はいつだって 「今日は休むよ」 どうして部活を休むようになったのか 考えても仕方がない、もしかしたら理由はないのかもしれない そもそも 学校にに来なくなって約半年後の転校だった 何故学校に行かなくなってすぐに転校をしなかったのか? いつか立ち直ると思っていたんじゃないのか? 時間が経てば学校に行けるようになる 少し休むだけだ1日休めば大丈夫。 明日の朝なら行ける気がする。 今日じゃなくてもいいんじゃないか?明日頑張ろう。 そんな風に思っていたから行けなくなった 誰も悪くなく、親に対する罪悪感だけが積もる 臆病僕は、逃げることしかできない 僕はクラスの誰でもない だから居場所が欲しい
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