9人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「なぁに、大方寝床にいるんじゃろうて。それより飯はあるかな?」
「ご飯と味噌汁なら残ってますよ」
「十分。ボンの味噌汁は出汁が旨いから、〆によい」
「食べたらちゃんと――」
「わかっておるよ」
キセルをポンと灰皿に打つ音が鳴って、瞬き一つする間には爺さんの姿は消え、煙草の臭いだけが残った。気持ち良さそうに高いびきをかく大男を起こして訊く前に、まずは寝床を確認しようと、一祢は踵を返した。確かでんでんの寝床は奥の列だったはずだ。
三つある通路の内の、入り口から見て一番奥、そこに入ってすぐ、一祢は顔を背けた。玉尾が一糸まとわぬ人の姿でいたからだ。
「いたよでんでん。櫛姫と一緒に寝てた。最後の逢瀬だったんかねぇ。引き剥がしちまうのが気の毒だったよ」
自身が裸であることを構わずに、玉尾は一祢に近づいた。
「分かったから何か着ろ」
「何さ今更。見慣れてるだろうに」
仮に猫の姿を裸というのなら見慣れているが、人の姿の裸を見慣れていない一祢は、顔を背けたまま、目も瞑った。ワイシャツ一枚でも着ているといないとではまるで違う。
「猫のままじゃ噛むしかないから人になったっていうのに……あぁ、もう分かったよ。手ぇ出しな」
最初のコメントを投稿しよう!