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素直に一祢は右手を出した。するとそこにでんでんを手渡された。玉尾の熱か、でんでんは少し温かく、鼓動はないが、確かに命を感じられた。
「目ぇあけな。もう大丈夫さぬ」
玉尾の声が足元から聞こえ、猫の姿になったと思った一祢は目を開いたのだが、そこには人の姿のまま屈む玉尾がいた。見上げてくるヒマワリを宿したアーモンド形の眼、そして――
「ムッツリ助平め。すぐに胸かい」
「おまっ」
慌てた一祢はすぐにまた顔を背けた。すると今度は頭の上から玉尾の笑い声がした。
「かっかっか!妖怪を簡単に信用するでないよ。久しぶりにあんたの慌てた顔を見たね」
今度こそ猫になったのだろうと、恐る恐る一祢が声のする方を見やると、玉尾は猫の姿で棚の上にいて、口許に不敵な笑みを浮かべていた。
「十や二十のガキじゃあるまいし、そんなに顔を赤らめちゃってまぁ。それとも経験がないのかい?」
挑発に乗って答えそうになるのをグッと堪えて、一祢は手の中のでんでんを見た。
朱塗りのでんでん太鼓。その付喪神でんでんは、今日、この倉庫を旅立つ。
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