そこに住まうモノと日々の活計《たつき》

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 するとかしましかった家鳴りがびたりと止んだ。代わりにゾゾゾと天井や床、壁の内を何かが移動するような気配がし、それに一祢は眉根を寄せたが、再び歩き出した。床は鳴らない。  対して長くもない廊下の中程にある、洗面所のドアを蝶番を鳴らしながら一祢は開けた。すると一祢の肩に、するりと天井からドアを伝い何かが移った。それはとげのある鉄の棍棒を肩に背負う立派な赤鬼だったが、手の平サイズの小ささだ。家鳴(やなり)、先ほどの家鳴りの正体、妖怪だ。これが大勢、この家屋に住み着いていた。  払い落とそうとする一祢の耳元で家鳴は囁いた。 「肴ぁ?」  辟易する一祢を横に、家鳴はコクコクと何度も頷く。ギロリと一祢が家鳴を横目で睨みつけると、慌てた様子を見せたが肩から降りようとはしない。きっと他の家鳴に唆されるなどして割りをくったのだろうと判断して、一祢は大袈裟に溜め息をついてみせた。 「台所の水屋箪笥の右の引戸に、食べかけのポテチとスルメがある。いいか、お前が責任持って均等に分けろ。喧嘩するなよ」  一祢からすれば優しさや親心のようなものからの言葉じゃなかった。台所で騒がれて埃が立つのを嫌ったのだ。けれども家鳴は"お前が責任を持って"のところを自分が一番に分け前を得られると解釈して、そそくさと一祢の肩を降り、小躍りしながら廊下の奥、台所兼食卓の方へ駆けていった。     
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