1人が本棚に入れています
本棚に追加
それから2人で、なにも話さずに歩いた。
彼は、時々何か言葉を発しようとわたしに目線を向けるけど、目が合うと気まずそうに目線を逸らした。
夏の終わり。
昼間はまだ熱いけど、このくらいの時間は気持ちがいい。
次の角を曲がると、家まであとほんの少し。
「・・・あの。
家、もうすぐそこだから・・。」
「じゃあ。」と言って角を曲がろうとしたその時、彼に腕をハシッとつかまれた。
驚いて振り向くと、顔を真っ赤にした彼がいた。
彼は「すみません。」と言うと、バッと手を離した。
「笹中芽衣さん。
あなたの事が好きです!」
彼は、わたしの目をまっすぐ見つめてそう言った。
「中々言い出せなくて。
こんな所まで来てしまって、すみませんでした。」
彼は、小さな紙切れをわたしに手渡した。
「もし、嫌じゃなければ、連絡ください。
オレの事、知ってください。」
彼はそう言って、元来た道を早足で戻って行った。
何だ?これ。
顔が熱い。高熱でも出たみたいに火照っている。
わたしの手の中で、小さな紙切れが生き物の様に息づいている気がした。
最初のコメントを投稿しよう!