2 朗

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彼女を初めて見たのは、高校の入学式の日だった。 明るく晴れた風の強い日で、校門に続く桜並木は舞い落ちる花びらでピンク色に染まっていた。 そこに、彼女はいた。 うちの高校は、新入生は入学式の日に沢山の物品を持ち帰らなければならない。大きな紙袋に入れてくれるけれど、紙袋の持ち手を持つと破れてしまいそうなくらい重くて。オレは下から抱えるように持っていた。 オレの5メートルくらい先を歩いていた女の子は、袋の持ち手を持って歩いていて。急いでいるようで、緩やかな坂道になっている桜並木を小走りで進んでいた。 袋は荷物の重みでガサガサと揺れ、今にも千切れそうだ。ヤバいんじゃないかなあと思って見ていたら、袋の持ち手ではなく袋の底が重みに耐えかねる様に、抜けた。 袋の中身がバラバラとそこら中に散らばり、たくさん配られたプリント類が風に舞う。女の子の周りにいた数名がプリントや荷物を集めるのを手伝って、女の子に渡した。 オレも、自分の方にプリントが数枚飛んで来たので、拾い集めて渡しに行った。その女の子は途方にくれた顔をしていた。紙袋は、全く使い物にならなくなっていた。 荷物を拾い集めてくれた人達も、どうしてあげようもなくて気の毒そうな視線を残して離れて行った。 オレも、どうしてあげることもできなくて。でも、このまま離れていくこともできなくて、少し途方にくれた。 その時、最後のプリントを持ってきた上級生らしい女の子が、途方にくれてしゃがみ込んでいた女の子の前にしゃがみ込んだ。 その上級生の彼女は、自分の持っていた布バッグの中身を全て出し、その布バッグを女の子に渡した。 女の子は、遠慮して中々受け取ろうとしなかったけど、彼女はにっこり笑って女の子のたくさんの荷物の上に布バックをポンっと乗せた。 「わたしの荷物は、学校に置いてくるから大丈夫だよ。 わたし、2年5組の笹中芽衣です。袋は、靴箱に放り込んでおいて。」 それだけ伝えると、彼女は足早に校舎の方へ戻って行った。 一目惚れだった。 完全な一目惚れ。 その日から、笹中芽衣はオレの中で特別な存在になった。
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