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俺は人間に擬態し、街を歩いていた。
多くの日本人にあるように、黒髪黒目。だが180を超える長身のせいか、はたまた何をどうしても仕方ない隠しきれてない神ががった(本物)イケメンのせいか、ほっとくとどうしても人目を引いてしまう。うっとうしいので神通力で存在感を消すことにしていた。
人に(主に女性の)目を向けられてもまったくうれしくない。こちらを向いて欲しいのは一人だけで、他は興味もない。
―――俺はかつて人に『邪神』とされて封じられていた神である。現代になって解放され、誤解も解けて悠々自適生活満喫中だ。
中でも何がいいって、嫁だ。嫁がいい。
俺の嫁が死ぬほどかわいい。
心の底から叫んで拳を握りしめたい。
この件なら何千年でも語れる。
自分のかわいさを自覚してないところも(本人いわくブスだがどこが?)、気が強く真面目で公正なところも、優しく勇気がありツッコミ上手なところも、とにかく何もかもがいい。けっこう鈍感で、たまに素でうれしいチャンスをくれるんだが、尊い。マジ死ぬ。
あ、本当には死なない。神のはしくれだからそう簡単には死なないし、そうでなくとも意地でもあらゆる力を使って嫁の傍に居座る所存だ。
彼女いわく、「一方的に押しかけて来た」らしいが、封印前はそんなの当たり前な時代だったぞ? 『ツルの恩返し』とか『雪女』とか見てみろ。
現代の常識や法律は違うって言っても、そこは感覚が封印前の時代対応ってことで押し通すんでヨロシク。
そもそも彼女は封印を解いてくれた恩人で、誰からも忌み嫌われた俺を誤解せず受け入れてくれた女性なんだ。絶対離さない。
と思って、あと最近夜の冷え込みがきつくて、寝てる間についうっかり蛇の姿で嫁の布団に潜り込んでしまった。蛇神である俺は寒さに強くないんだよ。あったかくて極楽。
……ほこほこしてたら、容赦なく脳天殴られた。
ゴスッ。
いいストレートだった。寝てる時にあれはきつい。
「起きたら目の前に大蛇の頭で、あっちもこっちも蛇の体とかホラーか!」
「猫や犬ならいいのに、蛇だと何で駄目なんだよ」
「普通に恐いっつーの! しかもあんた普通の蛇じゃないでしょ、頭としっぽ九つもあるじゃないの! どう見ても化け物襲撃の図だっ!」
と怒られて、自発的に家から出た。許してもらおうと思い、現在嫁とのデートスポットを探し中だ。
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