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妖がぎらぎらした目で叫ぶ。
「父は俺がプロに頼んで退治させたんだが。まったく、またとばっちりか。……いいかげん父の遺産とはおさらばしたい」
ため息しか出ない。そこへ妖狐警察が到着した。
「ご協力感謝します! 蛇神様」
「なっ、罠だったのか?!」
「当たり前だ。でなければなぜ普通の獣用の罠に妖がかかる。証拠を握るため、俺が囮になったわけだ。悪名高い父の息子だから確実に釣れる。それに、逮捕連行される前に見せたいものがあった。ちょっと来い」
警察とは囮になる代わりにと話をつけてある。黙ってついてきた。
俺の配下が経営するカフェ。嫁とのデートのために自分で作った店の一つだ。そこにいる人物を見てウサギの妖は愕然とする。
「……なぜ彼女がいるんだ!」
死んだはずのかつての恋人が他の男性と談笑している。
相手は人間で、かなり貢がせたらしい。周りにたくさんの買い物袋がある。
「……大蛇に食べられたんじゃなかったのか……?」
ふらふら進み出たウサギの妖を見た元恋人は、しばらく眉をひそめていたが分かったらしい。あからさまに慌てた。
同席している人間は訳が分からず混乱している。
「病気の弟を助けるために金が必要だと言っていたくせに! 借金のカタに食われそうだからと、金品を都合した! が、足りないと言われ、連絡が取れなくなって。だから……!」
「え? 私には、病気なのは母親だって。それでさっきもお金振り込んで」
ウサギの妖と人間の男性が顔を見合わせる。やっと騙されていたことに気付いたようだ。
俺が説明してやった。
「その通り。そいつは詐欺師だ。前科がごまんとある」
やばいと逃げ出した女詐欺師は待ち構えていた妖狐警察に逮捕された。
人間の男性はプライドを傷つけられ、怒り狂っている。彼には後で弁護士を紹介しよう。妖の事件専門の弁護士だ。
俺はがっくりしているウサギの妖を見下ろし、冷静に言った。
「言われたことを、正しいかどうか確かめもせず安易に信じ、無関係な者に濡れ衣を着せた。さらに似ているからと言う理由で見境なく襲う犯罪行為。罪は重いぞ」
妖用パトカー(朧車。現代風に改造されたエアカー&エコカー。外見は普通の国産車)は容疑者を乗せて走り去った。
俺は黙って見送り、踵を返した。
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