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普段から笑顔を絶やさないし、表情はコロコロ変わる。真面目できっちりした人間かと思えば、わりとドジだし少しやんちゃな部分だってある。ヴァイスがクール系だなんて、やっぱり俺には想像できない。
「次は……見た目!」
「そのままでいいんじゃね?」
「メランくんはそればっかりだなぁ。うーん、もっとかっこよくなりたいかなぁ」
「意外と理想高いんだな、ヴァイス」
「当たり前だよ!こんなチャンス二度とないだろうし、それなりには高望みしたいからね」
今とあまり変化を求めない俺とは違い、ヴァイスはそれなりに変化を望んでいるらしい。来世ではどうせ新しい人生を一から歩むことになるから、思い切って別人になるのもありかもしれない。だが、やはり考えるだけ面倒だった。
「次……」
「どうかしたか?」
それまで楽しそうにオプションを付け加えていたヴァイスが、急に黙り込む。顔からは笑顔が消え、どこか切なげな表情をしていた。
「あ、えっと、交友関係って項目があってね……」
「なるほどな。俺は面倒だからいらねぇかな」
「そっか……」
俺が素っ気なく答えると、ヴァイスは残念そうに呟いた。
「お前は友達欲しかったのか?」
「うん。僕、友達が居なくてね」
困ったように微笑むヴァイス。それがなんだか意外で俺は目を丸くした。此処にいる俺たちは、生前の性格をそのまま引き継いでいる。ヴァイスほど優しくて思いやりのある人間に友達が居ないなんて信じられない。
「僕、貧乏だったからさ。此処に来てからみたいに綺麗な服とか着ていなかったし、性格も良くなかったから」
「そうか?お前、結構いい性格してると思うぞ」
「そうでもないよ。卑屈で捻くれた人間さ」
俺がそう言うと、ヴァイスは目を伏せて静かな声で告げる。手に持っている万年筆が、机の上に置かれて小さく音を立てた。
「綺麗な服を着て、美味しいものが食べられて、友達に囲まれて笑う人たちをずっと妬んでた。酷い言葉を浴びせたこともあるよ。殴ったことだってある。僕は本当に最低な人間だった」
「……」
「だからね、次はもっと真っ当な人間になって人生をやり直したいんだ。せっかく神様がくれたチャンスだ。どれだけ虐げられようと蹴落とされようと、必死に足掻いてみせるよ」
真っ直ぐな水色の瞳が煌めく。強い光を宿したそれは、俺の心を揺さぶった。
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