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ようやく気付いた。
確かに、人生は苦しくてもう二度と経験したくないことばかりだ。だから、転生なんて御免だと思った。だけど、来世が要らない理由は正確には其処になかったのだ。
俺は、来世に行くのが嫌なんじゃない。
『友達』が居る世界から離れたくなかったんだ。
「さーて、新たな人生の旅立ちといきますか!」
思い切り伸びをして、ヴァイスが高らかにそう宣言した。それに呼応するように、門の向こうの世界が淡く煌めく。
「一足先に行ってるね、メランくん。早く来ないと僕、おじいちゃんになっちゃうからね!」
からかうようにそう言って俺に背を向ける。吹き抜ける風がヴァイスの白髪を揺らした。
「じゃあね、メランくん。君もどうか来世に来てね」
振り返らぬまま、ヴァイスはそう言った。何故ヴァイスは、そこまで俺を転生させたがるのだろう。俺が来世へ行っても、ヴァイスと再会できると決まったわけではないのに。単なるお節介なのだろうか。
それに、ヴァイスは心なしか来世を楽しみにしているようだった。不確定で信じがたい存在なのに、不安や迷いはほとんど無いように見える。
何故だろう。それが無性に気になった。
だから俺は、見送りの言葉ではなく彼の名前を呼んで引き止めた。
「ヴァイス!」
「……なに?」
相変わらず向こうの世界を見つめたまま、ヴァイスは立ち止まった。
「ひとつだけ、聞いてもいいか?」
「珍しいね。いいよ、何でも聞いて」
「どうしてお前はそんなに来世に行きたいんだ?」
そう尋ねれば、ヴァイスが少し驚いたように振り返った。
気まぐれの問いなんかじゃない。どうしてもこれだけは聞いておかなければいけない気がした。ヴァイスが来世を望む理由が知りたい。来世に希望でも見いだせれば、俺は新しい世界のことを少しだけ考えられそうな気がする。ヴァイスの思いやりを、無視したくなかったんだ。
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