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友達以上
僕は猛烈に腹を立てていた。
同居人の瞳のことで、だ。
昨日家に帰ると、瞳がトイレの前でぼんやりしていた。
手に握られたそれを取り上げて見れば、白いスティックの真ん中に赤いライン。
彼女は妊娠したらしい。
おめでとう、という言葉は喉の奥に引っかかる。
全然めでたくなさそうな蒼白な顔。
そういや、瞳の彼氏はまだ大学生だ。
結婚もしていない。
結婚してたら僕とルームシェアなんてしてるわけないか。
ひとまずダイニングチェアに座らせて、お湯を沸かしてカップスープを入れた。
「飲んで。一人で悩むとろくな結果にならないよ」
遠慮がちで控えめすぎる瞳には、少し強く言うくらいがちょうどいい。
「まず息をして。ほら深呼吸。そんな浅い息じゃ脳に酸素回らないよ」
時にその生気のなさにイラっとしてしまうこともある。こいつ生きてんのかな、楽しいことあるのかなって。
瞳は自分のことにほとんど金を使わない。
ルームシェアを始めた時に持ってきた荷物の少なさに驚いたし、その後にも物を増やす気配が無い。
仕事は制服、通勤用に二着、部屋着が二着。
鞄や靴は一つきり。
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