職人の悩み

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「で、試作品ができたら、ぼくのところに見せに来てね。それから、どれを作ってもらうか決めるから。じゃあ頼んだよ」  店を去る彼の背中に、俺は深々と頭を下げた。若旦那の注文は事細かいが、和菓子職人としてやりがいがあるものばかりだ。まるで明日が遠足のようなウキウキする気持ちで、その夜は床に着いた。そうして、俺は例の夢を見ることになる。  ご飯が炊き上がる匂い、父が火傷の危険を告げる。だが、もうすぐ出来上がる団子にワクワクしている幼い俺。  そう、あのワクワクと、俺が初めて作った団子を食べる父の横顔をドキドキしながら盗み見した記憶。  そして、俺が初めて作った団子を食べ終わった後の父の溢れんばかりの顔。その顔が、若旦那の笑顔と重なった。  翌週、試作品をいくつか携え、若旦那の店を訪ねた。待ち構える若旦那の前に一つ一つ 試作品を並べていく。と、その一つを置いた途端、若旦那の奥方の明るい声が溢れた。若旦那がそれを手に取り、口に運んだ。俺はどぎまぎしなから、若旦那の言葉を待つ。 「うん、やはり君に頼んで正解だったよ。妻が気に入ったこれとこれでお願いするね」  俺は姿勢をただし、深く頭を下げ、心の中でガッツポーズをした。 「あのう、この商品、ありませんか? 呉服屋の若旦那に、ここで作っていただいたと伺ったのですが……」     
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