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若旦那の特別注文の品を届けてから数日後に、店に訪れてた若い女性が見せた画像には、若旦那の注文品があった。
「ああ、これは確かにこの店で作った物ですが、若旦那の注文でお作りした品なので店頭にないのですよ」
「あら、残念。またいただきたいと思ったのですが……」
その言葉を聞いて、俺は思わず口にした。
「あの、よろしければ、次の週に予約という形で用意できますが」
「あら、まあ、うれしい!」
そして、そのやりとりをきっかけに、若旦那の特別注文品として、少しずつ広まり、やがて店頭でも売ることになった。
本部から、売上向上の金一封が届けられ、同時に他の店舗でも同じ物を作ることになったと通達があった。だが……
「材料が違う? ああ、それでいいんだよ。じゃあ、ばんばん作って、売ってくれよ」
一方的に切られた受話器を持ったまま、俺は本部から届いた大量の冷凍の団子と餡を呆然と見た。
その夜、やはり例の夢を見た。
しゅうしゅうと沸き上がる湯気と同時に満ち溢れる米の匂い。出来上がるその瞬間を待ち構える心。
なあ、親父、こんなとき、俺はどうすればいいのだ?
それから数週間後、街の清掃当番が回ってきた。ごみ袋拾いのペアを組んだのは、呉服屋の若旦那だった。
「君、こっちの方もしておこう」
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