七十二候

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 遠くでゴロゴロという音が鳴り出す。と、細かい雨と同時に、大空に鮮やかな半円のアーチが架かった。  生け垣の方に行くと、溢れんばかりの花弁を拡げる花が。その花は、美しい女性を、あるいは、薬の効能を例えた花の一つだと、注意書にそう記されている。  暦は春から夏へ移り変わろうとしている。  日誌を開け、今日見た、季節の花や動物達の動きを書き入れる。  この七十二候と、花や動物の動きは、若干ずれる事があるわよ。と、先輩に聞かされていたものの、なかなかどうして。七十二候の通りに、白と赤の甘酸っぱい匂いがした木々に黄色い実がなり、青紫のりんとした花、ポンという音が聞こえそうな花が咲いていく。  そのたびに、よろこびに似た感情が溢れるのは、私自身に刻まれた遺伝子の記憶からなのだろうか。  季節は夏から秋へと移り変わる。  夏の終わりを告げる虫が鳴き始めた。  子ども達と植えた水田が黄金色へ変わり、その黄金から重たそうなフサが垂れる。  おしゃべりするような鳴き声の黒い鳥が、忙しそうに空を横切る。もうすぐ、彼らの姿が見えなくなり、入れ替わるようにV字の列をなした鳥の群れがやって来る。     
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