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彼岸の狭間で
参道の脇に、無数の彼岸花がその茎を伸ばし、その花を咲かせる準備をしている。
写真を趣味をする者らにとって絶好の撮影場所なのだが、まだ、夜が開けきっていないのもあって、未だ静寂に包まれている。
そんな参道を、山根はゆっくりと歩いていた。山根の視線の端に、時折陰が動いていたが、視線で追うことはしなかった。
やがて山根は参道脇の公園へと足を踏み入れた。そこには、すでに参道の先の神社の神主と、公園を挟んで立つ寺の住職が、山根の到着を待っていた。
「山根さん、どうですか?」
「住職の手紙のとおり、迷える魂がこの参道に集まっている。それもかなりの数で、ただ迷っているだけではないようだ。
どうも、この参道に厄介なモノが紛れ込んでいるようだ。おいらはそれを探ってみよう」
「その間、我々は我々が出来ることをすればよいのだな」
山根は神主の言葉にうなずいた。
神社から祈祷が、寺からお経がそれぞれ聞こえ出した。それと同時に、参道脇の彼岸花の茎が紅に、蕾が翠に、空が金色に、石畳が漆黒に転換した。
参道が、日常から彼岸の狭間に移行した証だ。
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