職人の悩み

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職人の悩み

 ご飯を炊き上がる時にする匂いと同じものが店の中に広がった。 「大智、少し離れてろ。火傷するぞ」  今は亡き父が火を止め、せいろをおろし布巾をめくる。俺は背伸びし中を見る。と、俺の腹の虫が泣き、親父が笑いながら、出来立ての団子を皿にのせ、俺に食べるようにうながした。  ……ああ、またあの日の出来事を夢見ているな。俺はそう思いながら、何度も繰り返し見る夢を見ていた。  ――わかっている。この夢を見るときは決まって、仕事のことで何か悩んでいる時だ。 「大智くん、いる?」  本部からの通達に頭を抱えていたら、斜め向かいの呉服屋の若旦那が、ふらりとやって来た。この人は俺の作る和菓子を高く評価してくれており、時々、特注の品を注文してくれるお得意様だ。 「この前、君に作ってもらった豆餅、とても好評だったよ。でね、今度の茶会の品も君に頼もうと思ってね」 「ありがとうございます。で、何時、どのような物を?」 「そうだね……」  俺は若旦那の注文を聞き、メモを取りながら、その注文にそえる和菓子を幾つか思い浮かべていく。     
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