最終章 エニシダさんと彼の開かれた部屋

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最終章 エニシダさんと彼の開かれた部屋

「…それで?」 完全に機嫌を損ねた風な表情。わたしの向かいの席で憮然と肘をつく、やんちゃな小学生男子が老けたような印象の男。老けたといってもあくまで小学生には見えないってことだから。知らなければ実年齢の三十五歳よりはだいぶ若く見えると思う。 そういえばかく言うわたしも、この前由田さんから四、五歳は若く見えるってお墨付きをもらったっけ。青山くんとの共通項を考えればお互い小柄なのと、あとはやっぱりフリーの生活が長いことが影響してるのかな。女性はわからないけど、漠然とした印象では男の人は会社勤めより自由業の人の方がよくも悪くも歳より若く見えることが多い気がする。 多分、きっちりした序列の中にいないから普段厳密な上下関係もなく、年齢相応に自然に成熟する機会があまりないんじゃないかな。若見えって言えば聞こえがいいけど、その実上手く歳を取るのに失敗してるともいえる。 などとその場と関係ないとりとめのないことを考えながら彼の方へとまっすぐ顔を向けた。いくら何でももう、ここまで来たら。 はっきりともうこの先はない、わたしはあの人を選んだからって告げないと…。     
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