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それでもお互い誰に気兼ねすることもないフリー同士(決まった相手がいない、って意味で)だった頃とはいろいろな面で変わっていくのは致し方ないことなのかもしれない。だいいち完全に異性としての意識ゼロ、ただの友人ってスタンスだった時はともかく。仮にもこいつからはプロポーズを受けてて、今日は正式にその返事、あけすけに言うとお断りをするために覚悟を決めてこうして赴いた次第なわけであるから。
そう考えると少し前からまっさらのただの友達と言い切るには微妙な関係になってしまってる。だから、わたしが他の人と付き合い始めたりゆくゆくはそちらと入籍、ってことになると。
ちょっと寂寥感漂う気分にならないこともないが。多少疎遠になるのも成り行き上、仕方ないことなのかなぁ…。
複雑な思いで視線を外し、落とす。こっちは別に、それはそれとしてこいつとは友達のままで構わないのにって意識はあるけど。向こうはもう、そういうことならお前とは関係ないからどうでもいいよって考えるかもしれない。でもそれはそれでしょうがないか。
何でもかんでも思うように手に入るわけじゃない。一つ手にすれば別のものは手放さなきゃならないことだってあるだろう。
「…何か言いたいこと、あるんじゃないの?」
ぶすくれた声で重ねて問われて我に返った。しまった、つい。
「ごめん。なんかいろいろ。気が逸れて、自分の中で物思いに耽っちゃった」
正直に謝ると、青山くんは大袈裟に嘆息した。
「なんだよそれ。わざわざ呼び出しといて、話も切り出さずに勝手に一人で自分の中に閉じこもるなって。目の前でぼうっとしてる俺が阿呆みたいじゃん」
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