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自由
あの時、私は何を捨て、何を得たのだろうか。
いや、捨てたものはいくらでも思い付く。
金、娯楽、趣味、自由、人、数え上げればきりがない。
だが得た物は何だ。
妻という立場の女性。
あの時は得難い宝物を手に入れたのだと信じていた。
だが、今思うとどうだろう。
果たしてこれはどうしても手に入れなければならなかっただろうか。
彼女に声をかけたのは確かに私だ。
その時点で、私は間違いなく彼女を愛していた。
何を捨てても手に入れたい輝きが、彼女にあるように感じていた。
そこに迷いはなかった。
だが、時を経るにつれ、彼女は輝かなくなっていった。
輝きは陰りを見せたかと思うと、瞬く間にその姿を消した。
後には素地をむき出しにした凡庸な女性が残っていた。
彼女の素地は、決して私の好むものでは無かった。
なぜ彼女に輝きを感じたのか、それすらわからなくなった。
それはきっと彼女も同じだったろうと思う。
ある時から、彼女の私を見る目が冷ややかになったのに気付いていた。
だが、その時点で私達は手遅れだった。
彼女は私の妻であり、私は彼女の夫になっていた。
ここで腹を割った話し合いをしていれば、何かが変わっていたのかもしれない。
だが、そういう事ができる関係ではすでに無かった。
同じ家に住みながら、心は果てしなく離れて私達は暮らし続けた。
何がそうさせたのか今では分からない。
捨てたものが大きすぎて、得た物があった、価値の大きなものだったと信じたかったのかもしれない。
だが、結局のところ歩み寄らぬ以上二人の中に進展は無く、意地を張り続けるにも限界はある。
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