さよならには理由が要る。

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 ────これで最後だとわかっていたから、ずっと手を握っていた。  真夜中のJRに、中年の男ふたりが並んで座っている。一時間以上も乗りっぱなしだが、一言も話していない。終着駅まで行って折り返し運転になっても動かず、ずっと黙って座っていた。  ふたりともスーツ姿だ。おれはブルー系で、あいつは格子柄のグレーのスーツ。昔はスリムなスーツばかりきていたあいつも、今は中年太りのせいで、ワンサイズ大きめになった。そういうおれも、出てきた腹のせいでベルトを限界まで広げているのだから人のことは言えないが。  ちらりと百均で買った腕時計を見る。もうすぐ23時になろうとしていた。居酒屋で別れ話をしてから電車に乗り込んだが、何となく離れがたくてずっとこうしてふたり並んで座っている。  これで最後だとわかっていたから、ずっと手を握っていた。もちろん他から見えないように鞄で隠しながら、だけれども。  別れ話はしたが、嫌いになったわけではない。若い頃ならいざ知らず、おっさん同士の恋に疲れと限界を感じただけだ。  大学生からつきあってきたおれたちももうすぐ四十になる。おれの特殊な恋愛状況を知らぬ母親が最近、『孫の顔が見たい』と連発するようになった。母一人、子一人のシングルマザーで苦労して育ててくれた母親に、本当のことはどうしても言うことができなかった。  そんな時、断りきれなくて人数合わせで参加したコンパで、彼女に出会った。特別美人というわけではないが、素朴で優しい彼女に惹かれていく自分もいた。  考えなくても、わかった。  これが最後のチャンスではないか、と。  
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