私の憧れのあの人は……

10/10
628人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
「おっし、行くぞ!」 酒井課長が現れてから、この場を主導しているのはもちろん酒井課長なわけで、我々が飲み食いしたはずの伝票をさくっと掴むのもいつものことである。 最初こそ、遠慮したり割り勘にしてくださいと抵抗してみたものの 「後輩は素直におごられておくもんだぞ、ウッシー」 と言われてしまって 「そうだ、そうだ、ゴチになりますって言っておけばいいんだ、碧ちゃん! エロ課長! ゴチになります!」 と、新藤さんが続けたものだから、それ以来 「ゴチになります!」 とお礼を言うことにしている。 もちろん、そのとき、新藤さんは 「デカい声でエロ課長っていうんじゃない、バカタレ」 と、課長に軽く諫められていた。 憧れの新藤さんと、その夫である酒井課長の関係性、憧れる。 毎度のことながら、サラリとお会計を済ませてくれる酒井課長にお礼を言って、このままいつものように赤電車の方へと歩くと思っていたら、お店の前で酒井課長が立ち止まった。 「そうだ、ウッシー。ウッシーって彼氏、いないんだろ?」 嫌いな上司に言われたらセクハラ発言だと腹を立てるところだけれども、憧れの新藤さんの夫の酒井課長だし、ちょっと困ったような顔で聞かれてしまって、曖昧に仏のような顔で頷いてみる。 ほうっと溜息のようなモノを吐き出して、斜め上を見た酒井課長の色気、ご馳走様です。 「取引先の社長の息子とお見合いする?」 言いたくないけど、一応、聞きましたみたいな顔で質問されて固まる。 取引先の社長の息子とお見合い? なにこの、小説的な展開。 もしかして、推定御曹司は野獣系? 私にも、らめぇ~な展開、来る? 「いやいや、それだったら、大企業勤務の幼馴染を紹介するよ?」 新藤さん、ソレ、新藤さんの弟さんとラブラブな人でしょ……私の弟なのにって悔しがってた……あっ、弟と幼馴染を引きはがして新藤さんが弟とラブラブって戦法? 「話の腰を折るなよ、中折れでフラストレーション溜まるだろ」 若干、おかしな言葉が含まれていた気がするけど、気にしないでおこう。 基本、この人たちは変態夫婦だし。 「まぁ、いいや、考えといて」 酒井課長の言葉に社交辞令的な会釈と微笑みを返しておきますよ。 フフフ。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!