私の天敵のこの人は……

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三河の山奥から大学に通うために兄の下宿先に転がり込んだのは今から十年ほど前で、大学卒業と同時に現在借りているアパートに移り住んだ。 兄はそのまま三河の地方都市で公務員の職を手に入れ、現在もそこで暮らしているはずだ。 私が海川商事に就職を決め、兄の元を離れて一人暮らしをすると言い出したときに、最初は私の一人暮らしに反対していた兄が途中から率先して私の下宿先探しを手伝いだしたときに気がつけば良かったのだけれど…… 今まで反対していた兄がやっと賛成してくれたのだから、兄の意見を取り入れて下宿先を決めようと仏心を出したのが運の尽き。 「よぉっ!」 私の住むアパートの道を挟んだ向かい側にある、鉄骨の少々おしゃれな賃貸に住む兄の同級生に度々遭遇するのである。 ご近所さんなのだから、仕方がないとは思うものの、その遭遇率の高さがイヤになる。 兄は、この同級生・湯沢直樹(通称・湯沢っち)がここに住んでいるから、私の住む場所をここら辺で探したに違いない。 確か……急行電車が停まるし、駅からそんなに遠くない。閑静な住宅街だけど、ちょっと駅から離れているから家賃も安い。 駅から家までの間に商店街も交番もあるから、治安も悪くないだろう。 と、言っていたし、確かにその通りで穴場だと思う。 思うのだけど、それだけの利点が霞むぐらい、湯沢っちは天敵なのだ。 私がまだ小学生で、中学生になった兄が、友達を連れてきたのがその天敵(湯沢直樹・通称・湯沢っち)だった。 最初は、幼心に中学生のお兄さんをステキだと思ったような思わなかったような記憶があるようなないような……。 テスト期間中とかで、私よりも早く兄が帰ってくるような日に我が家に遊びに来ていた湯沢っちが、2階の兄の部屋の窓から、家の門を通過して玄関に向かう私の目の前に飛び降りて脅かしてきたときから、湯沢っちは私にとって苦手な人だ。 あまりに驚いて、その場で尻もちをついて腰を抜かした私を涙を流さんばかりに大笑いしてバカにしてきた記憶が私の中の湯沢っちのすべてなのだ。
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