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小太りのおばちゃんが
「いつもありがとうねぇ」
と新藤さんと酒井課長に挨拶しながらゆで卵を運んできた。
えっと、これは食前酒的な?
疑問に思っても、長い物には巻かれておく私は、何も感じていないみたいな顔で新藤さんと酒井課長のようにゆで卵に手を伸ばして二人と同じように取り皿にタマゴの殻を剥いて入れていく。
「ちっ、失敗した」
酒井課長の小さい舌打ちと言葉に
「せっかちだからですよ、もっとゆっくり丁寧に剥かないと☆」
と、勝ち誇った新藤さんの顔。
「大人の男は剥けてないとな」
……。
今の言葉、ナニ?
卑猥なことを普通に言った?
違うよね?
違うよね?
誰にも聞けずに、無言で殻を剥くしかない。
「俺が一番だったな」
「早さだけじゃないですか」
「早かったらダメってか? じゃぁ、今夜はゆっくり丁寧に……イテッ、足、踏んだだろ!」
「踏んでないですよ、私の長い脚が当たっただけですよ」
「俺の足のが長いだろ! 特に長いのは第3の足…イテッ!」
これが夫婦漫才ってやつだね。
生温い目で酒井夫婦を見ているとコブさんの視線がコチラを向いた。
「まだ自己紹介もしていませんでしたね、僕、小松太郎って言います」
マジかっ!!!
太郎って名前の人、初めて会った!
しかも、僕!
そこは、僕ちゃんって言って欲しかったよ、コブさん!
「牛田碧です」
私に与えられたミッションは、この人をケチョンケチョンにすることだったよな……いや、でも、よく知りもしない人をケチョンケチョンとかなぁ……微妙な気持ちでいたら
「ごめんね、僕のタイプじゃないから」
と真顔で言われた。
いや、私の方こそ、全然、アナタ、タイプじゃないです!!!
「僕は、もうちょっと若い人がいいんだよね」
……お前、見た目アラフォーだろーーーー!!!
私だってお断りじゃーーーー!!!
私のイラつき、分かるだろうか。
全然タイプでもなんでもない好意の欠片さえ持たなかった相手から、上から目線でお断り。
引くよ、これ、引く。
助けを求めて横を見たら、新藤さんはスマホを弄ってるし、課長は苦笑いで私に目で謝ってくる。
そりゃ、ギリギリまで言わずにだまし討ちみたいに連れてこられたわけだ……。
どうやってケチョンケチョンにすればいいのか分からないけど、とりあえずコブさんを倒す!
それだけは心に決めた。
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