私の憧れのあの人は……

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私の憧れの人は、今、目の前で幸せそうな顔をして愛妻弁当ならぬ愛夫弁当を頬張っている。 黄色の卵焼きと白いゆで卵がお弁当箱の中に入っている不思議は、見なかったことにしておこう。 タコさんウインナーを、この人の夫であるあの人が作ったという衝撃の事実を誰かに話したら、納得してくれるだろうか。 それとも、フェイクニュースを流すなよ、広報課と思われるだろうか。 「碧ちゃん、食欲ないの?」 私の箸が止まっているのを見つけた、目の前の憧れの人が少し首を傾けて聞いてきた。 「ありますよ……愛夫弁当っていいなと思って。新藤さん、じゃなかった、酒井さん、幸せそうですよねぇ」 会社内では旧姓で通している新藤さんにわざと『酒井さん』と言ってみれば、目を泳がせ恥ずかしそうにモジモジしている。 「会社内では新藤だから!」 知ってます。 きっと、温い目で私は新藤さんを眺めている。
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