私の憧れのあの人は……

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もぐもぐとお弁当を咀嚼する新藤さんをそっと、だけど、ジッと観察する。 新藤さんが夫の酒井課長を好きで、新藤さんの方から酒井課長に迫って付き合いが始まったのだとばかり思っていたのは私だけじゃないはず。 2人が付き合っているらしいし、結婚するらしいと聞いたときには、私じゃなくても新藤さんが酒井課長に迫ったと思ったに違いない。 逆だったとは、控え目に言っても驚いた。 酒井課長が押せ押せで、最初は新藤さんに相手にされていなかったという事実を営業部長が上機嫌に吹聴していたという話を同期に聞かされて、もっと驚いたものである。 部下の恋愛事情に詳しい営業部長とか、摩訶不思議だ、営業部。 恋バナは、女子の好物じゃなかったのか。 恋バナはオジサンの好物だったのか!? 謎のヴェールに包まれた営業部から、噂の新藤さんが総務部に異動してくると聞いたときは、どんな人が来るのかと思っていた。 なんだ、普通の人じゃん。 モテそうな酒井課長と新藤さんって組み合わせに、別にいいけど、なんかなぁと当初は小首を傾げてみたりした。 美女と野獣の反対バージョンなどと失礼なことを心の中で思っていたけれども、、新藤さんが異動してきてから1年間、一緒に仕事をして、その面白おかしい様子を見せてもらって、このおかしな部分に惹かれたのかなと思った次第だ。 引かれずに惹かれるあたり、酒井課長はイケメン風味な見た目に反して3枚目キャラ確定だ。 でも、酔っ払った新藤さんからの情報提供によると、下半身はけっこうな野獣らしい。 そして、新藤さんは猛獣使いだそうだ。 うん、よく分からないけれども、酔っ払った勢い、怖い! 「碧ちゃん、午後からって、社内報に載せる新入社員の子のアンケートの回収だよね。それと、写真をついでに撮ってくるんだっけ?」 「そうです、そうです。面白いモノが見られるかもしれないから、是非とも一緒にまわりましょう。特に営業部には一緒に行きたいです!」 仕事中に愛妻の新藤さんが現れたときの酒井課長のデレた顔が見たい。 そして、是非とも、夫婦漫才をして欲しい。 自分でも顔がニヤけている気がしている。 ジト目で新藤さんに見られても、こんなに美味しい状況が目の前にぶら下がっていて、みすみす見逃すはずがない。
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