630人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
「碧ちゃん、今晩、暇?」
本日は、月末である。
「暇ですよ、営業部、達成会ですか?」
「うん、そう、私と碧ちゃんもたまには飲みに行こう!」
「いいですよ、あっ、でも、その前に」
「「サンクチュアリ!」」
私と新藤さんの声が被ったのは、飲みに行く前に2人でサンクチュアリに行こうという話である。
サンクチュアリとは、駅の裏側にある我々の聖地。
アニメやコミック、画材に同人誌と、ひとたび足を踏み入れたらしばらく脱出不能に陥ってしまう魅惑の聖地のことだ。
ときどき、新藤さんから夜ご飯だったり飲みのお誘いがあるのは、決まって月末。
営業部が達成会の日だと、いつだったか教えてもらった。
酒井課長が帰って来ないから、夕飯を作るのが面倒だそうだ。
それから、酒井課長が、新藤さんにも友達とご飯を食べたりしてくればと言って、お小遣いをくれるそうだ。
そのお小遣いを新藤さんはサンクチュアリで有り難く使うらしい。
面白い!
遠慮なく新藤さんが私をサンクチュアリに誘ってくるのも、ずいぶん前に偶然、サンクチュアリで遭遇してしまって、趣味が似ていることが発覚してからで。
堂々と同人誌を買って帰る姿に、私の憧れが凝縮されている。
私は、堂々と誰かに自分の趣味を公言できないし……昔、付き合ってみた人にもカミングアウトはできなかった。
夫の前で、枯れ専モノとか、オジサン受けの同人誌を広げているのかと思うと……憧れよりも尊敬だ。
かと思えば、
「お兄ちゃん、らめぇ~」
なんて、エロでも偏ったエロを買って帰ってみたり。
新藤さんは、勉強の為とかって言っていた気がするけど、いったい、ナニを勉強したいんだろう……そういうプレイ?
いや、そこはご主人様が酒井課長だって知っているから、想像したらダメだと思うものの……。
とにかく、いろんな意味で濃くて強い新藤さんは、私の憧れの人だ。
最初のコメントを投稿しよう!