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意識して、注意して話していた一年。
次第に普通を忘れた二年。
気付けば胸に一本のナイフが刺さっていた。
〈言葉にならない言葉のナイフ〉。名状し難い自己嫌悪。
このナイフが抜けるのは、あれから会っていない母さんに謝る時だ。
刃物を抜けば血が溢れる。それはとても痛いだろう。
けれどその時、隣にナタリアが、ユウキがいてくれたらな。そう思った。
──そうさ。もう、大丈夫。
▽
一度顔を真っ赤にして俯いたスズリだったが、少しして顔を上げると、真っ直ぐな眼差しでナタリアを見据えた。
私は多分、心底驚いた顔をしている。
スーちゃんはこの半年、何も話してくれなかった。
彼が抱える過去も、それ故に言葉をセーブしているのも知っていた。
そんな彼が、直接的にではなくとも『出てきてほしい』だなんて。
──スーちゃんも、変わったんだな。
その思いに応えたい。私も変わりたい変わらなくちゃいけない。
それでも壁を仕舞おうとすると、足が震えて、息が苦しくなる。
──対して私は、弱いな。
外の世界が怖い。
この閉じた壁の中にいても、何も変わらないことはわかっている。
パパとママが帰ってこないこともわかっている。
それでも、パパとママのいないこの世界に、私のそのままの言葉が通じない世界に、一人で生きていくのは酷く怖い。
みんなと話す時、慣れぬ日本語に一度変換しなくてはならない。
頷くタイミングも、笑うタイミングもやはりズレる。
それはどこか疎外感を感じさせた。
それでも帰ると二人がいた。
「Приветствовать(おかえり)」と笑う家族がいた。
私の言葉を私の言葉でわかってくれた。
慣れるものだと聞く。
気付けば日本語で思考する日が来るかもしれない。
それも嫌だ。パパとママが薄れてしまいそうだ。
こんな意味のない思考を続けて半年。
グダグダで纏まらない考えは何をする決心も産まず、ただ暗い、言葉を亡くした箱の中。震え怯え暮らしていた。
▽
「ごめんね......!ごめんなさい......!」
しばらくの空白の間の後、ナタリアは声を上げて泣き始めた。
おそらく何度も出てこようとしたのだろう。それでも、こちらへ来ることはできなかった。
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