第3話

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▽ 「大丈夫か!?」 走り寄ってきたスズリに、握った大型ナイフを見せた。 「おう、無事だ!」 敗北を覚悟したあの瞬間。ゴム化して金属光沢を失っていたはずの刃に、一本本物の刃が混じっていることに気づいた。 防御対象をその一本に絞り、両の掌で挟み止めた。 「オレの能力は意識も加速するからな!混じった本物を見つけるなんて余裕だぜ!」 そう笑ったオレに、スズリはただ頭を下げた。 「すまない、俺の不注意だ。危うく君を傷つけるところだった」 「気にすんな!それより強いな!さっきの攻撃、何もできなかった!」 興奮してそう返すが、顔を上げたスズリは辛そうな顔をしていた。 「すまない。俺の能力は、すぐ人を傷つける」 「え、ああ〈言葉のナイフ〉だったよな?」 「......キャスターの能力は、その人を表したものになるんだ」 そう言ったスズリは、手に一本のナイフを生み出した。 「ナタリアは、自分の言葉が理解されない辛さから〈言語の壁〉という能力が生まれた。俺は......」 一度言葉を止める。 「俺は言葉でたくさんの人を傷つけた。その罰で、この能力が生まれたんだ。気を抜けば、言葉がナイフになって人を傷つける、こんな能力が」 ナイフが霧散する。空になった手を握りしめ、吐き捨てる様にそう言った。 「その力が、嫌いなのか?」 「嫌いさ。俺は、この力で大事な人を傷つけた」 ▽ そう言った時、スズリは自分が能力に目覚めた日のことを、断片的に、悔罪的に思い出していた。 怒鳴る母。 唇を噛む、小さな自分。 思わず声を荒げ言い返した。 自分でも驚く程に、冷たく鋭い言葉が出た。 驚愕と、それを上回る悲痛に顔を歪めた母を見た。 同時、生成射出された〈言葉のナイフ〉が、母の頬を深く切り裂いた。 崩れ落ちる母。 眼前の事実を理解できず、ただ立ち尽くす子供。 ▽ 「この力を使ってキャンサーを倒す。それが俺の贖罪、罪滅ぼしなんだ」 オレは、なんとなくだが理解した。 昨日の戦闘で「楽しそうだな」とスズリが吐いた意味。 ──何があったかは知らない。でも、きっとこいつは『自分がした事を償うため』、ただ機械の様にキャンサーと戦っていたんだ。 「それ以外に意味は要らない。この力が、『世界を守る為の物』でなかったら、この力は何の為にあるんだ」
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