第3話

7/16

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
そう言った時のスズリの瞳には、怒りも悲しみも無く、ただ深い闇が広がっていた。 「......ナタリアを」 少し間を開けて、再度スズリは口を開く。 「ナタリアをよろしく頼めないか」 「え?」 「俺はきっと、知らぬうちに人を傷つける言葉を吐いている。今のナタリアに、俺は話しかけられない。君がナタリアと話している時、彼女はとても楽しそうだった。あんなナタリアは久しぶりに見た」 自嘲的に笑い、スズリは続ける。 「ああ。俺はどうして〈言葉のナイフ〉なんだ。どうして人を傷つけてしまうんだろうな。シダユリみたいに優しい言葉を、君みたいに面白い話を、どうしてナタリアにかけてあげられないんだろうな」 「......それは、違うだろ」 思わず、口を開いた。 「まだオレは傷ついてない」 「心じゃなく、身体が傷つきかけた」 「でもまだ傷ついてないぞ」 「いずれ傷つく。それが心か身体かはわからない。けれどきっとすぐに──」 「いい加減にしろよッ!」 叫ぶ。 目を見開いて、視線を落としていたスズリはこちらを見た。 「誰かを傷つける『いつか』を気にして、誰かに想いが届くかよ!」 一歩、足を出す。 「気づいてないのか!?オレは出会ってまだ2日くらいだけど、もう気づいた!多分ここのみんなも気づいてる!」 スズリはたじろぎ、何も言わない。 「スズリ。お前の言葉でオレたちが傷つくことはないよ。だってお前の発言、それに含まれる〈言葉のナイフ〉、その刃先は全部」 思い出す。今までの会話。 食堂で、機械調整室で。 「その刃先は全部、お前に向かってるんだよ」 スズリは自分を責めていた。 俺のせいだ。俺のせいだと吐いていた。 「お前の〈言葉のナイフ〉で、お前が一番傷ついてどうする!他人を傷つけたくないからって、自分が傷だらけになってどうする!」 「......だったら!」 叫び返したのはスズリ。両拳を握りしめ、頭を横に振る。 「だったらどうしたらいいんだよ!俺は!みんなを傷つけない為に、どうしたらよかったんだ......」 最後は声にならなかった。溢れる涙が、コンクリに吸い込まれて消える。 オレは、そんなスズリに言った。 「知るか!!」 「......はぁ!?」 「誰かに気持ちを伝えて生きて、誰も傷つけないなんて無理だろ」 ただ、思ったことを言った。 「ビビりすぎなんだよ、傷つけることに」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加