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そう言った時のスズリの瞳には、怒りも悲しみも無く、ただ深い闇が広がっていた。
「......ナタリアを」
少し間を開けて、再度スズリは口を開く。
「ナタリアをよろしく頼めないか」
「え?」
「俺はきっと、知らぬうちに人を傷つける言葉を吐いている。今のナタリアに、俺は話しかけられない。君がナタリアと話している時、彼女はとても楽しそうだった。あんなナタリアは久しぶりに見た」
自嘲的に笑い、スズリは続ける。
「ああ。俺はどうして〈言葉のナイフ〉なんだ。どうして人を傷つけてしまうんだろうな。シダユリみたいに優しい言葉を、君みたいに面白い話を、どうしてナタリアにかけてあげられないんだろうな」
「......それは、違うだろ」
思わず、口を開いた。
「まだオレは傷ついてない」
「心じゃなく、身体が傷つきかけた」
「でもまだ傷ついてないぞ」
「いずれ傷つく。それが心か身体かはわからない。けれどきっとすぐに──」
「いい加減にしろよッ!」
叫ぶ。
目を見開いて、視線を落としていたスズリはこちらを見た。
「誰かを傷つける『いつか』を気にして、誰かに想いが届くかよ!」
一歩、足を出す。
「気づいてないのか!?オレは出会ってまだ2日くらいだけど、もう気づいた!多分ここのみんなも気づいてる!」
スズリはたじろぎ、何も言わない。
「スズリ。お前の言葉でオレたちが傷つくことはないよ。だってお前の発言、それに含まれる〈言葉のナイフ〉、その刃先は全部」
思い出す。今までの会話。
食堂で、機械調整室で。
「その刃先は全部、お前に向かってるんだよ」
スズリは自分を責めていた。
俺のせいだ。俺のせいだと吐いていた。
「お前の〈言葉のナイフ〉で、お前が一番傷ついてどうする!他人を傷つけたくないからって、自分が傷だらけになってどうする!」
「......だったら!」
叫び返したのはスズリ。両拳を握りしめ、頭を横に振る。
「だったらどうしたらいいんだよ!俺は!みんなを傷つけない為に、どうしたらよかったんだ......」
最後は声にならなかった。溢れる涙が、コンクリに吸い込まれて消える。
オレは、そんなスズリに言った。
「知るか!!」
「......はぁ!?」
「誰かに気持ちを伝えて生きて、誰も傷つけないなんて無理だろ」
ただ、思ったことを言った。
「ビビりすぎなんだよ、傷つけることに」
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