第3話

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「お前の〈言葉のナイフ〉がどれだけ鋭いのかは知らない。でも、」 オレは、握っていた大型ナイフ(ほんもののナイフ)を逆手に持ち、思い切り自分の胸に振り下ろした 「何をするやめろ!!」 スズリが叫ぶがもう遅い。ナイフは吸い込まれるように胸に疾り、刃先がアーマーに当たると同時、 まるで脆いガラス細工のように、細かに砕け散った。 「......ど、どうして」 呆然と、霧散し消えるナイフを見ながらスズリは呟いた。 「お前、『僕は人を傷つけたくない』って泣いてる奴の〈言葉のナイフ〉が、本当に刺さると思ってんのか?」 ハッと、スズリがオレの目を見た。 「『死ね』って言われようが、何を言われようが、『そんなこと言いたくない』って思うことを理解してあげていたら、そうして悩んでいると知っていたら、言葉のナイフ(そんなもの)で傷つきゃしねぇよ!」 スズリは、じっとオレの目を見つめる。オレはそれを逸らさず、真っ向から受け止める。 「だから自分を刺すなよスズリ。少なくとも本部(ここ)の人達はみんな、お前のことちゃんとわかってくれてると思うぜ」 ニッと笑う。 「......そうか」 「そうか」とスズリは小さく、噛みしめるように何度も繰り返した。 「怖いな」 暫くの後、スズリは、頭を書きながら言った。 「ずっと、誰も傷つけないように生きてきた。いろんな人を傷つけたからだ。それを、『お前の言葉じゃ傷つかない』なんて。......誰がそう思ってくれて、誰がそう思ってくれてなくて、そんなことわからない中、思ったことを話せなんて」 「別にみんなにそうしろってわけじゃないよ。ただ、お前が自分を刺さなくても、心の底から話せる相手を見つけようぜ」 「手始めに俺なんかどうだ?」 と差し伸べる手。 きっとスズリは不器用なのだ。いや、恐怖後悔故に不器用になったのだ。 傷つけないように傷つけないようにと、ひたすらに自分をセーブし続けた。 丁度いいセーブが彼にはできなかったのだろう。 今、俺の手を優しく握り、やってみるよと頷いたスズリが口を開く。 「ったくしゃあねぇな。今日の所はテメェに乗せられてやるよ新米(ニュービー)!」 ──うっわ口悪っる。 想像以上の口の悪さに、不器用さに、俺は思わず笑ってしまった。 「あぁん!?何笑ってんだテメェこら!?」
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