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「いや、ごめん、くっ......。だって、もう、くくっ、不器用っていうか、越えて馬鹿なんじゃ」
「もういっぺん言えやゴラァ!!」
「うひゃひゃ!待って、待ってうひゃひゃ!」
まったく。まだ、『気持ちをそのまま伝える』ということと『悪いこと』が切り離されていない。
「口調まで変えなくていいんだぞ?な?」
腹を抱えて笑っていると、「くっ、『丁度いい』がわからない」と、スズリは恥ずかしそうに俯いた。
▽
「さて、行くか」
オレはスズリにそう声をかける。
「どこに行くんだ?」
胸のあたりを弄り、アーマーを分離、スーツケース状に戻したスズリが言った。
「ナタリアちゃんのところだよ」
「ナタリアの......?」
訝しむスズリに、オレはニッと笑った。
「伝えに行こうぜ。言いたいこと」
▽
ナタリアが引きこもる部屋。正確には、引きこもる立方体がある部屋。
壁をノックし、反応を待つ。
すると、ゴゴゴと音を立てながら壁が沈んで行く。
中から顔を覗かせた彼女は、オレの顔を見て薄く笑い、その後ろのスズリを見て少し驚いた顔をした。
「スーちゃん......」
名を呼ばれ、気まずそうに視線を逸らしたスズリ。
しかしもう一度顔を上げ、ナタリアの紅い目を正面から見据えると、ゆっくりと口を開──
▽
──『迷惑だから早く出てきて』『いつまで仕事サボる気だよ』『閉じこもって何になるんだよ』
冷たい、尖った言葉を言う自分が頭の中に浮かぶ。
怖い。
あの時、母さんを傷つけたあの時。俺の口から、俺が言おうとしたことではない言葉が出てきた。
言葉というのは、難しい。心とチグハグなことがある。
どうかこの気持ち、ちゃんとナタリアに届くように。
「ナタリア。......寂しい。また一緒に、遊ぼう」
──恥っず!!!
ボッと顔から火を吹いたスズリは、自分の口から溢れた言葉を頭の中で繰り返す。
──恥ずかしいっ!結局こんな短いことなのか、言いたいこと!やっぱり何もナタリアのことを考えてないじゃないか!自分のわがままを言って終わった!優しい言葉をかけたかった!
──だが、コレが本心か。
吐いてしまっても、違和感がない。嘘じゃない。痛くない。
出た言葉はナイフではなかった。恥ずかしいけれど、人を傷つける言葉ではなかった。
なんだ。もう、大丈夫か。
あの日、もう誰も絶対に傷つけまいと誓った。
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