56人が本棚に入れています
本棚に追加
「いらっしゃいませ」
サクとケイタの声がハモり、店内に響く。
私の次にあたるお客さんが来たらしい。
カウンターと私の座る席の間を通り、荷物を抱えたまま注文をする若い女の人とおばさん。
親子らしく、おばさんがまとめてお金を払っている。
まだレジを覚えて間もないケイタの様子を見学していると、二人組はトレーに乗せた飲み物を手にして振り返った。
席を探し始めた二人組みのうち、若い女の人の方と目が合い、心の中で「ゲッ」とすぐに言っていた。
「リエちゃん?」
「ユイさん!あれ、今日休みだったんですか?」
「うん、リエちゃんも?」
「はい」
後ろ姿では気づかなかったが、その女の人はユイさんだった。
隣にいるユイさんのお母さんらしき人に、「こんばんは」と言いながらお辞儀をする。
顔を上げてユイさんを見ると、会話した瞬間に感じていたフツフツとどうしようもない感情が更に込み上げてくる。
仕事場ではロッカー室以外で顔を合わせないのに、休みの日に限って店で顔を合わせるなんて、良い気分じゃない。
私はもちろん、ユイさんも同じ気分だろう。
なんで休みだというのに私がお客さんとしてココにいるのか、など色々と憶測するはずだ。
「休みの日までココに来て嫌にならない?」
「私、ココ好きですから。家にいてもすることないんで。ユイさんこそ同じじゃないですかぁ」
「私は店舗違うもん。それに今日はお母さん連れて来たかったから」
私とアンタは違うのよ、って一線引かれたようだった。
かろうじて微笑んで、「そうなんですかぁ」と返事すると自然に話を終わらせた。
ユイさん親子は空いている私の隣の隣の席に座って、それ以上何も言わなかった。
なんだか負けた気がして、悔しさが襲ってくる。
母親にサクを紹介するのか、もうすでに顔見知りなのか仲良しなのかは知らないけれど、自分のタイミングの悪さを呪う。
こんな日に会うなんて、よほど私とユイさんは縁があるらしい。
サクが絡んでから明らかにユイさんと顔を合わす回数が増えている気がする。
ストローで小さな氷をザクザク突き刺しながら、グルグルと回す。
たいして飲んでいないアイスコーヒーが薄まっていく。
私のサクへの想いも薄まっていけば、誰もが幸せになれるのに。
なんて、そんなことを思ったものの、自分が本気でそう考えているのか自問自答したくもなった。
最初のコメントを投稿しよう!