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しばらくしてようやく引っ込められた涙。
そして、長い沈黙のまま時計の針はもう深夜一時をさしている。
近くの公園のベンチに座っていたけれど、いつまでこうしていてもキリがない。
もういい加減に帰らないと、と自分を奮い立たせて無言で立ち上がった。
サクもさすがに何も言わず、立ち上がると、当然かのように手を取り、私の家の方へ向かって歩き出した。
ユイさんは家で待っている。
こんなに遅くなってどうするつもりなんだろう、と考えては、私にはどうでもいいことだ、と打ち消した。
アパート前まで来ると、繋がっていたサクの手を離す。
「結局教えてくれないんだな」
「サクに話しても解決することじゃないもん」
「話すぐらいいいじゃん。リエの意地悪」
「意地悪って」
この人の空気はなんでこんなに温かいんだろう。思わず顔が緩んで、笑みを浮かべる。
「やっと笑った」
私に釣られてサクも笑顔になる。
本当に心配してくれてたんだなって伝わってくる。
「思い切り泣いたらスッキりしたの。ありがとう、サク」
「どういたしまして」
「じゃあ、おやすみなさい」
おやすみの挨拶代わりに、サクに抱きつくとすぐに離れ、そのまま部屋に戻っていく。
振り返れば、帰りたくなくなる。
背中に突き刺さる視線を感じながら、肩に掛けたバッグの中からガサゴソと鍵を探す手に集中した。
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