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シャワーを浴びて出ると、ケイタがタオルと着替えを用意していてくれていた。
上は大きくても構わなかったけれど、さすがに下はウエストがダボダボで野放しにすることはできなかったから、ウエスト部分の布を集めると、髪ゴムでキュッと絞り結んだ。
「ありがとう。温まった」
髪を拭きながらお礼を言う私に、ケイタはそれに反応せず「俺の服を着てるのが不思議」と言った。
なんて反応したら良いのかわからず、あはは、と笑う。
私が不思議なのは、ほのかに香るケイタの匂いだ。
柑橘系の匂いが好きな分、着ていて心地良い。
私のつけている香水と同じような匂いがして、自宅にいるようでなんだか落ち着く。
ベッドを背にして床に っていたケイタとは反対側のソファー側に寄りかかり、腰をおろす。
「サクさんと何かありました?」
「なんで?」
「だって、こんな遅くになることってないから」
アルバイトが終わる時間はもちろん、私の帰ってくる時間もおおよそ把握しているケイタには見破られて当然だ。
「雨でうまく隠れてたけど、泣いてた気がしたし」
「ケイタって、目ざといよね」
「褒めてますか?」
「もちろん」
「素直じゃないですね。今も本当は泣きたいくせに」
ケイタの言葉は正解だ。
私の表情を事細かに見ているのか、私の心を見事に読み当てているのか。
どちらにしても私の涙腺は緩みだした。
「涙は出し尽くしてきたつもり」
「そうですか?しつこそうだけど」
「言うねぇ」
「素直になるなら胸貸してあげてもいいですよ」
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