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「えっと、座らない?」
着衣を整えるタイミングでなぜかお互いに立っていて、目を合わせないようにしていた。
座ったところで状況は変わらず、どうしていいものか困る。
「さっきは、ありがとね。助かった」
「お礼言われることは何もしてませんから」
顔をあげてちゃんとケイタを見て話す私に対してケイタは顔をあげることなく、目を見ることもなく、そう言った。
「そんなことないから。一番来てほしい時に来てくれたから、ほんと嬉しか」
「なんで、」
「え?」
言葉を遮ぎり、被せるケイタの声。
「なんでサクさんと一緒に帰ってんだよ!」
突然声を張り怒鳴りつけられ、肩がびくっと上がる。
「なんで最後の最後まで一緒に帰ってるわけ?こうなるって予想できたはずなのに。俺やユイさんが来なかったらどうするつもりだったんですか」
少し声が震え、拳を握り締めるケイタの姿を見て、また張り詰めていたものがぷつりと切れた。
必死に堪えてもそれは止まらず、溢れ出てきた。
「ごめん、なさい…」
「俺、もうリエさんが傷つくの見たくない…」
「ごめっ…」
這いながらケイタに近づくと、両手でケイタの手を包みながらそばで項垂れた。
殴りたくもないのに、ケイタに人を殴らせてしまったのは私だ。
何度も謝りながら、涙はなかなか止まることはなかった。
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