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受け取ってみるとそれは地図のようだった。だけどそれは明らかに誰かの手書きだろう、イラストと細い線が入り組んだ抽象的な地図だった。
俺はそれを逆さまにしてみたり角度を変えてみたりと色々観察した後、じいちゃんを見る。
「なにこれ。地図?」
「予言者の予言は外れない。お前は勇者の末裔として選ばれたんだ。いずれ向こうの世界への扉も繋がる。向こうへ行ったら、皆に宜しく伝えてくれ。まあ、俺が向こうに居たときの知り合いは、みんなじいさんばあさんになってるだろうが。」
じいちゃんはもう俺の質問にはいっさい答えてくれなかった。
ただ自分の記憶と対話をしているかのように、俺を度外視した言葉をつらつらと並び立て、懐かしむように穏やかに笑うのだ。
秘薬、あっちの世界、予言者、世界の危機、救世主、勇者の末裔。
見慣れぬ言葉ばかりが出てきて、まるで本物のように語るじいちゃんは、俺を困惑に追いやった。
理解しがたいものばかりを口走るじいちゃんに、薄ら寒ささえを覚えた。
そこで俺ははっと息を呑んだ。
もしかして、じいちゃんはボケちゃったんじゃないかと。頭を打ったのが原因ではなく、ボケているのじゃないかと。
正装してまで夢物語をさも思い出のように語るじいちゃんに、俺はどうして良いかわからず、言葉を失ってじいちゃんを頭から足のつま先まで穴があくほど見つめる。
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