はじまり。

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そんなところに都会からやってきた五才児である。 アイドルになるのは必至であった。 こんな小さな子供を見るのは何年ぶりだろう!と歓喜に震える老人たち。 近所でちょっとしたアイドルだった。 少し歩けば寒天をもらい、また少し歩けばふがし、また歩けば漬け物、と言った具合に、歩くだけでラインナップは渋いが食べ物が自ずと集まり、熱心なファンと化したばあさんなんかは、はぎれを使い服を作ったりしてくれた。 まさしく今思っても五才児が人生最大のモテ期だった。 ちやほや、という文字が浮いて見えるほどちやほやされたものである。 が、そのモテ期は瞬く間に収束を迎えた。 原因は例のおじいちゃんである。 「たけるは、勇者の唯一の子孫だからな。もっと貢いでも良いんだぞ。」 子供ながらに、じいちゃんのその一言でその場が凍り付いたのを今でもしっかりと覚えている。 じいちゃんは酒も飲まない、たばこも吸わない。 日がな一日畑をいじっている普通のじいさんだ。 そんなじいさんが、遊びに来た公民館で突然そんなことを言い出した。 ちなみに申し遅れた。俺の名前は佐藤健。     
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