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まあ後は思春期特有の特筆するにはあまりに見苦しい黒歴史は数多く存在するのだが、別に平均である。
何と言われようと平均値である。
そんなごくごく平均なバネを携えた俺の前に現れた跳び箱は、てっぺんが霧で霞んで見えないくらいだった。
その巨大な跳び箱が現れたのは、成人の日。
成人の日に現れた大きな壁、とは少年漫画のようなシチュエーションであるが、実際そんな良いものではなかった。
俺はその日村の成人の会に袴姿で出席していた。
堅苦しいお偉いさんの大人とはなんたるか、という有り難いお話を半分白目を剥きつつ聞き寝入り、その後振る舞われた樽酒を浴びるほど飲みどんちゃん騒ぎの帰り。
「たーだーまぁあ」
呂律すら回っていなかったと思う。
ずろずろに着崩れた袴を引きずるようにして、慣れぬ酒に飲まれた俺は、何とか家に帰ってきた。
土間先でつま先をのたくるようにして草履を脱ごうと躍起になっていたが、泥まみれの足袋には草履はなかったらしい。
マジックで「佐藤」と書かれた草履が近くの畑の肥溜めで見つかった話は、また今度で良いだろう。
俺の脱線癖はここに陳謝しておくとして、家に帰ると、玄関にじいちゃんが立ってた。
「おい。おい!しゃんとせえ!水で顔洗ってこい、大事な話がある。」
「あい、あい。ちょお、待って…いまいくから」
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