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第一部 お見合い編 1
その夏、オーガスト領を治めるフェザーストン伯爵家は、まるで葬式まっただ中のような暗い空気に満ちていた。
食卓にはかろうじてパンとチーズは並んでいるが、これもいつまでもつものやら。
とても今日が十六の誕生日だとは言い出せない雰囲気だ。
ニコル・フェザーストンは空気を読んで、一家そろっての晩餐で、息をひそめて家族をうかがっている。ランス王国では、十六の誕生日は、成人を迎えるとても特別なものだ。普通ならば、貴族なら一家そろってお祝いするような大事な時である。
「ああ、まずい。このままでは我が伯爵家はつぶれてしまう! 私の代で没落してしまうだなんて、ご先祖様に申し訳が立たないぞ」
とうとう父であるフェザーストン伯爵が頭を抱えて、テーブルに突っ伏す。素早く察知した給仕係が、すっと皿を遠ざけた。さすがは二十年勤めるだけあって、見事である。
「あなた、落ち着いて。せめて食事はおいしくとりましょう」
睡眠不足で隈を作っている母――伯爵夫人が夫をとりなす。
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