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もしこれを見ていたのが、男の扱いに長けた女ならば、演技だと見抜いただろう。だが、村人達は素朴な気質で、美しいものに圧倒されていた。
「どういうことだ? やっぱり嫁が悪いのか?」
「ええ。夫婦喧嘩の後……」
少年は声をひそめ、周りを見回す。そして、近くに顔を寄せるように示し、男達は従った。彼らにしか聞こえない声で、少年は暴露する。
「領の運営には欠かせない、印璽を盗んだんです」
二人は息を飲んだ。
「印璽って……」
「盗んだだけで処刑になるっていう、あれか? どういう形をしてるんだか、知らないが」
大罪の一つとして、昔話で伝わっていたので、男達はとんでもないことだと驚いた。
「ええ、なんでもご先祖様が王から領地をたまわった際にいただいた、由緒正しい金の指輪だそうですよ」
「金……」
「そりゃすげえ」
そこで少年はため息をつく。
「ご領主様は奥方様を愛しておられるので、大事にしたくないのだそうです。ですから、僕に秘密裏に説得するようにとおおせで。しかしあの方も傷ついておられる。僕はとても許せない」
「あ、ああ」
「そうだ。許すなんて、ひどい話だ」
顔をしかめて頷く彼らに、少年は同調する。
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