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「はいはい、そのうち慣れますよ。アルファのオメガへの執着って怖いからなぁ。ベータの俺には分かりませんがね。あ、体調はいかがですか?」
「あちこち痛くて動けないよ」
「そりゃあ、普段からほとんど眠っておいでで筋力が弱いのに、あんな運動をしたら筋肉痛にもなりますよね」
「もう黙っててくれ!」
「へーい」
ゆるい返事をするレインから顔をそむけ、ニコルは溜息をつく。お試しは大成功で、ブラッドリーからも結婚してくれと言われたが、ここからが正念場だ。
「あとはオーガスト領への支援を取り付けないと……。それに持参金も用意できないんだよな」
そんな余裕があるなら、洪水で害をこうむった民を助けるほうに回す。今のフェザーストン家の貯蓄はほとんどそちらに使っている。
もし見合いが成功した場合、支援について頼めるようにと、ニコルは父から書類一式を預かっていた。成人したばかりの十六の身に、政治的な交渉なんて荷が重いのだが、これも領のため、家のためだ。
「政略にしては、良いお相手じゃないかな」
魔力が足りなければ眠ってしまうとはいえ、ニコルだって伯爵家の次男だ。ある程度の教養は身につけている。政治でのあれこれも察しているし、貴族の務めも分かっているから、結婚に愛や夢を見ていない。
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