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ランバートは視線を向けたわけじゃない。目はずっと鍋を見ている。でもまるで知っているようにチェスターの心配を言い当てた。
こういうところが、ランバートを侮れない所だと苦笑する。
「昨日の夜、ちょっと様子がおかしかったんだ」
「様子がおかしい?」
始めて青い瞳がチェスターを写す。上半身を捻って振り向いたランバートに、チェスターは頷いた。
「なんか、怯えた感じでさ。その後は俺を拒絶するみたいな」
「お前、襲ってないよな」
「俺にそんな甲斐性あると思うのか!」
「そこ、威張る所じゃない」
溜息をついたランバートの視線は再び鍋に。けれど気にしているのは分かった。
「俺にも、よく分かんないんだよ。ただ、リカルド先生青い顔してたから」
「それも妙だな」
「うん。でもどれだけ水を向けても何も言ってくれないし、逃げられる。困った事とかあるなら、手伝いたいんだけど」
妙な胸騒ぎがしている。いつも冷静なリカルドが動揺するというだけで不安になる。困っているなら助けたいし、話せば意外と解決できる事もあるかもしれない。
けれどリカルドは何も言ってくれないし、平気な顔をしている。
「……リカルドさんも、エルだからな」
「え? あぁ。でもそんなの、関係ないだろ?」
「扱いの問題じゃない。エルの一族は何かしら、俺達凡人には分からない力があるだろ」
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