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その日は、突然の雨に降られ、濡れながら家路に向かい走っていた。
「もー、何なんだよっ。天気予報じゃ曇りって言ってたじゃないかーっ」
バイト先を出た頃は小雨で傘も要らないくらいだった。それなのに、道を半分くらいきた辺りから本降りになってきた。幸い、バイト先から家までの距離は近く、徒歩数十分といった所だ。だから、道を戻りコンビニで傘を買うという判断も却下し、ひたすら走っていた。
冷えてきた身体に温かい風呂はもうすぐだと言い聞かせ、力を振り絞り雨の夜道を走る。ようやく家が目視で確認できる場所まできた時だ、視界の端に妙な物が入り込み、思わず足を止めた。
それは、道の端に落ちていた薄汚れたぬいぐるみだった。きっと、干していたかなんかしていた物が落ちてしまったのだろう。まあ、さして気にするような物ではないけど、なぜかそれが気になってしまった。俺は雨で霞む街灯の明かりの下で目を凝らし、さらに近づき間近でそれを見てみた。
「えっ!? 動いた?」
ちょっとつついてみようかと、指を近づけた瞬間、ぬいぐるみだと思っていた物がピクリと動いた。ビックリしてしまい、思わず身を引いてしまったが、やはり気になりまた顔を近づけた。すると、それは弱々しく顔を上げ、俺の匂いを探るように鼻をヒクヒクとさせた。
「……クゥ~ン」
か細い鳴き声を発したのは、子犬だった。野良なのか迷子なのか分からないが、どうやら他の犬と喧嘩でもしたようで、小さな体には所々傷らしき物がある。おまけに、折れて垂れている耳の片方は一部分が噛み千切られたみたいに欠け、右耳だけが立ったようになっている。
あのか細い鳴き声が助けを求めている声に思え、俺は迷うことなく鞄からタオルを引っ張り出し犬を包み込んだ。触った時に威嚇され噛まれるかとも思ったけど、そんな力もないのかぐったりと俺の手に身を委ねてきた。優しく抱き上げてみれば呼吸も浅い。その様子に焦り、俺は慌てて来た道を走って戻った。
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