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「湊先生、どんな具合ですか?」
診察台の上で治療を受ける子犬を挟み、湊先生に状態を訊ねる。
「どうやら他の犬と派手に喧嘩をしたみたいだね。右耳の傷は化膿しかけている。おまけにノミとかも付いている。何日も食事をとっていないみたいだから、かなり衰弱しているね」
湊先生の口からは、あまり良いとは言えない文言ばかり出てくる。けど、その表情や声色にそこまでの深刻さは感じられず、一応の安堵を得た感じがした。
それからも治療は続けられ、手際のよい湊先生の動きにうっとりとしてしまう。しかし、憧れに浸りながらも視線はぐったりと動かない子犬に向かってしまい、心配で胸が痛んでしまう。こんな時、何も出来ない自分が情けなくなってしまう。
「こいつ迷子なのかな?」
治療が終わり、ケージに入れられた子犬を眺め、ふと呟く。
「うーん、どうだろ。首輪をしていた感じもないし、栄養状態も毛並みの状態もあまり良くなかったから野良の可能性が高いかな? でも、昨今野良なんて珍しいからねぇ。まあ、一応迷子のお知らせを出しておくよ」
「……そうですか。じゃあ、お願いします。湊先生、今日はお休みの所、申し訳ありませんでした」
精一杯の気持ちを込め頭を下げると、何となく後ろ髪引かれる思いを抱きながら病院を出た。
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