エピソード9 後悔、そして

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もちろん、そんな話は聞いていなかった。 混乱する僕の顔を、ドレスを着た若い女性が覗き込んだ。 「あらあら。とっても可愛らしいバトラーさんね」 その女性こそ、当時のクロア家の令嬢で、次期当主のリリア様だった。 美しい。 まだ誰かを好きになるだとか愛するだとか、そういった事とは無縁だった僕でさえ、この方の全てが、とても眩しく思えた。 「あら? どうしたの? お顔が赤いわ」 「え? べ、別に」 「これ、リト! 無礼であるぞ」 「大丈夫よ、気にしてないわ」 それがリリア様との出会いだった。 それから僕は屋敷で使用人見習いとして、父や、他の使用人達に混じって働く事になった。 朝早くから夜遅くまで、屋敷の掃除や庭の手入れ等、とにかく屋敷の為に働いた。 『執事たるもの、教養も必要』だと、合間を縫って勉強も欠かさない。 大変な毎日だった。でも、僕はその日々に苦痛を感じる事は無かった。
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