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もちろん、そんな話は聞いていなかった。
混乱する僕の顔を、ドレスを着た若い女性が覗き込んだ。
「あらあら。とっても可愛らしいバトラーさんね」
その女性こそ、当時のクロア家の令嬢で、次期当主のリリア様だった。
美しい。
まだ誰かを好きになるだとか愛するだとか、そういった事とは無縁だった僕でさえ、この方の全てが、とても眩しく思えた。
「あら? どうしたの? お顔が赤いわ」
「え? べ、別に」
「これ、リト! 無礼であるぞ」
「大丈夫よ、気にしてないわ」
それがリリア様との出会いだった。
それから僕は屋敷で使用人見習いとして、父や、他の使用人達に混じって働く事になった。
朝早くから夜遅くまで、屋敷の掃除や庭の手入れ等、とにかく屋敷の為に働いた。
『執事たるもの、教養も必要』だと、合間を縫って勉強も欠かさない。
大変な毎日だった。でも、僕はその日々に苦痛を感じる事は無かった。
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