神様の前では誓えない

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 十代の頃から作詞作曲をしていた直輝は、大学生の時に路上で歌っているところをスカウトされて今の事務所に所属した。早々に進路が決まり、順風満帆な人生が約束されたかのように思われた。しかし、現実はそんなに甘いものではなく、ヒットを出せないまま数年の月日が流れた。ライブ活動も行ってはいるものの、活動年数の割にファンの数は伸び悩んでいる。当然、事務所からの給料だけじゃ生活していけるはずもなく、直輝は音楽活動と並行してコンビニでアルバイトをしながら日々の生計を立てている。  「贔屓目なしに聞いても良い曲だと思うんだけど、世間は認めてくれないか」  私はテレビを見ながら独りごちた。テレビをつけると音楽番組がやっていて、画面の中では眼鏡をかけた白いシャツの男性がギターを弾きながら恋の歌を歌っている。私は部屋の隅に立てかけられた直輝のギターに目をやった。いつかこの番組に直輝が出られる日は来るのだろうか。  直輝は私の三つ下で、元々家が隣同士の幼馴染だった。年齢のせいもあって、友達からは結婚はどうするの?とか、この先もずっと売れない彼氏を支えていくつもり?とか、聞かれるようになったけれど、売れてないとはいえ、私は小さい頃からの夢を叶えた直輝を誇らしく思っていた。なにより、私は直輝の作る曲が好きだった。だから直輝にもっと堅実な仕事をしてほしいと思ったことはなかったし、別れようなんて一瞬たりとも考えたことがなかった。
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